洋服徒然草2007年版 ;洋服を着るとき知っていると楽しい情報集  

(191)
当社では英国テーラー&ロッジ社のスーツ地をよく使います。
おそらくは英国で最も有名なこの織物工場では
百年以上前と同じく工場脇を流れるホルム川の水を汲み上げて
織り上げた洋服生地を洗っています。
泥炭層を通ってきた軟水が生地の風合を増すのだといいます。

単に水道代を倹約しているだけなのかも知れません。
しかし同社の生地は実際に仕立て映えがするので
日本の仕立て屋の間ではたいへん信頼されています。

当社が作る洋服も予想以上によくできることもあれば
まず予想程度に縫いあがることもあり、
その差がどこからくるものかよく分からないのが実情です。
とにかく時間をかけて、昔ながらの方法を模索しながら作ると
良い洋服ができるようです。

(190)

当社では30年以上前に英国で織られたビンテージ生地を集めていて
しっかりとした本格派の洋服を好むお客様にお勧めしています。
当時の生地には現在とは全く違う固くて重い質感があります。

なぜ最近の生地にこのような感覚のものがないのかと生地商社に尋ねてみると
ひとつの要因として現在では刈り取った羊毛をすぐに織物にしてしまうからだと
いう答えが返ってきました。
昔は羊毛を刈り取ると1年以上寝かせて熟成させることによって
粘りを出したのだといいます。

時間をかけるということはそれだけで価値を生む、
こんな事例は他にもありそうです。

(189)

トレンチコートには根強い人気があります。
その名の通り戦時中にトレンチ(塹壕)で着た軍用ロングコートです。
右肩に長銃を当てるためのガンパッチが付き
雨が入らないよう襟元を密閉できるデザインになっています。
肩章(エポーレット)には銃の下げ紐を掛けます。

もっとも今では街で着るためのおしゃれコートの要素が強く
本来の厚みのある綿生地では重くなるので
本家英国バーバリー社でもずいぶん薄くて軽い生地を使うように
なりました。
当社では昔ながらのごつい綿生地を探して使っています。

(188)

いつも洋服のことを教えて頂いている東京の先生の上着は
裏のお仕立てを台場付きになさっています。
「なぜ台場をつけるのですか」とお尋ねすると
「裏地を取り替えるとき便利だから」とおっしゃいます。
なるほど裏地が最も痛むのは腰の部分なので、
擦り切れたら台場から下だけを取り替えればよいのです。

以前は生地が貴重なうえに何十年でも持つように
しっかり仕立てていたので、裏地を取り替えることが
ときどきありました。
最近手間をかけて裏地替えをすることが滅多になくなり
正直のところすっかりその意義を忘れていました。
台場は高級に見せかけるための飾りではないということです。
本来の仕立て方を守る先生の姿勢に改めて感服しました。

(187)
オーダー用の洋服生地は長さ約60mを巻いた反物の形で
イギリスやイタリアから船で運ばれてきます。
柄物の場合一柄一色が3反くらい輸入されるでしょうか。
スーツにして60着足らずの分量です。
これを日本中のテーラーが売るのですから、
岡山県内に出回るのは1着だけといってもそう間違いではありません。
オーダー洋服はほとんど1点物なのです。

(186)

今から30年以上前に織られたヴィンテージ生地で現代スーツを仕立てると
たいへん存在感のある服ができるのですが、
現在残されている古い生地はどれも用尺(生地の長さ)が
短いのがつらいところです。
最近仕入れる洋服生地は3,2mに切ったものが一般的ですが
ヴィンテージ生地は全部2,9m以下に切られています。
当時は以下のような理由からわざわざ短い生地を仕入れていました。

1、生地の値段が高いので少しでも短く注文した
2、日本人の体格が今よりかなり小さかった
3、ハンドメイドだったので工夫次第で短い生地でも作ることができた

当時はいかに短い生地で仕立てることができるかは
仕立て屋の自慢話のひとつでした。

(185)
ウール(羊の毛)には以下のような洋服生地に適した特質があります。
1、復元力
  1本1本がバネのように縮れているのでシワになりにくい。
2、保湿力
  水分をはじく性質と保つ性質を合わせ持っている。
3、保温力
 
仕立て屋にとって最も重要な性質は
生地に織り上げたあと適度な水分と高熱を与えて
変形させることができる点です。
本来平面である生地をアイロンで操作することによって
膨らみをもたせ、人体のラインに沿った立体的な
洋服を作ることができます。

(184)
ウール(羊毛)が洋服生地として最高の素材であることは間違いありません。
いい洋服地はたいていウールをはじめとする
天然繊維100パーセントです。
これに対してポリエステルなどの化学繊維の優れている点は
その時々に必要な特性、機能性を持たせることができることです。

たとえばミユキ毛織がシャリックという商品名でたいへん薄くて軽い
透けて見えるような夏物スーツ地を織り上げ、販売しています。
このような生地はウール100%で織ることはできず
かなりの化繊を織り込んでいます。
値段も結構高いです。
独特の風合いとか伸縮性を持たせたいときにも
それぞれの機能に合った化繊を織り込むことで
特殊な洋服生地を作ることができます。

(183)
ヨーロッパから輸入される生地はミル物とマーチャント物に二分できます。

ミルは毛織物工場のこと。
工場が自分のリスクで生産します。
高品質の生地が中間マージンなしで入手できます。
テーラーロッジ(英)が代表格でしょうか。

マーチャントは生地商社です。
商社がリスクを背負って生地をミルに発注します。
企画性、デザイン性に優れた服地を生産、販売できます。
スキャバル(英)など有名生地の多くはマーチャント物です。

(182)
メイド イン イングランド、あるいはイタリア製の生地といっても
その原料である羊毛の大部分はオーストラリアとニュージーランドの
牧場で飼われている羊のものです。
長くこの2国は世界中に羊毛を提供していたのですが
近年ここに割り込んできたのが中国です。

量販店で売られている既製服の多くが中国縫製ですが
実は生地も中国製が使われています。
生地の原料である羊も中国の羊。
既製服飾業界においては中国が世界の工場となっています。

(181)
ファッション雑誌「メンズEX」の07年10月号は
「サルでもわかる英国スーツ」を特集していて
これが読ませます。
記者が英国に赴いて現地のミル(織物工場)に
イギリス製生地の特徴を聞いているのですが
「丈夫で長持ちする」
「厚くて重いからいい」
「熟練した職人がいるからいい生地を織ることができる」
と、50年前百年前と少しも変わらない返事が返ってきています。
この頑固さゆえに先端的なデザイン性を重視する
イタリア製生地に押されているのですが、
本来正しい答えであるに違いありません。

当社はテーラーロンドンという名前もあって
英国製の生地が50%
イタリア製の生地を40%、
日本製の生地10%くらいの比率で使っています。
全般的にいえば英国生地の品質はイタリアより上だと思っています。

(180)

ツィードはザクザクとした固い手触りの生地で
独特のクラシカルな存在感が魅力です。

近年は英国製の生地といえども原料の羊毛は
オーストラリアやニュージーランドで育った
メリノ種の羊の毛を使うウーステッド地が一般的。
ツィードの典型ともいえるハリス・ツィードはイギリス原産の羊の毛を使い、
ハリス島およびその周辺で織られたツィード地です。
ハリスツィードで作る上着はいかにも英国らしい無骨な味があります。

イタリアで織られるツィードはシルクなども織り込まれて
柔らかく都会的な雰囲気を出しています。

(179)
耳にスーパー100とかスーパー120とか織り込まれている生地があります。
これは生地の原料となっている羊毛の太さを現す数字で
数が多いほど細い毛を使っているという意味です。
IWTO(国際羊毛繊維機構)によって
スーパー80は太さ19,5ミクロンの羊毛
スーパー100は太さ18,5ミクロンの羊毛
スーパー120は太さ17,5ミクロンの羊毛を
スーパー150は太さ16ミクロンの羊毛を
原料とするなどと決められています。
当社でははスーパー100~120くらいの生地をよく使います。
スーパー130~150の生地もありますが、
相当柔らかいので着る人を選びます。

(178)
たとえば同じゼニアの生地でも
既製服にするために縫製工場に納める生地と
私ども仕立て屋に卸す生地は最初から違うものです。

オーダー店にある生地は耳(フチの部分)に
ブランドの名前や生産国が織り込まれています。

既製品工場で使われる生地は60m巻きの反で納品されるので
耳を織り込む必要がありません。
耳をつけると反に巻いたときにフチだけが分厚くなって
扱いにくくなるので、工場としても歓迎しないのです。

(177)
スポーツといえば現在では運動競技のことですが
その昔は貴族や富裕層が行う気晴らし的活動全般を意味していたようです。
走りを楽しむための自動車をスポーツカーと呼ぶのはそのなごりです。

スポーツウエアも現在では競技に勝つための機能が優先されて
軽くて動きやすく、空気抵抗の少ない素材まで考えられていますが
本来は野外でのおしゃれを楽しむものでした。

ゴルフならニッカポッカという半ズボン。
狩猟ならツィードのジャケットといった具合です。
スポーツは勝つものではなくたしなむものであった時代の服装。
現代でも見直されてよい感覚だと思えるのですが…

(176)
2007年8月28日に安倍改造内閣メンバーが発表され
新聞にはおなじみの新閣僚集合写真が掲載されています。
男性閣僚は全員恒例のモーニング姿ですが
ネクタイをシルバーグレイの無地で統一しています。
全く同じ品ですので官邸側が用意したのでしょう。
礼装を制服のようにみなしてネクタイを揃える発想は特殊です。

最前列右端の冬柴国交相のコールズボンは太すぎる上に
サスペンダー(ズボン吊り)を使用していないので
クリーズライン(前の折り目)が崩れています。
礼服着用時には必ずサスペンダーが必要です。

写真が撮られたのは27日夜の10時ころです。
モーニングはその名の通り朝から夕飯前まで着用する礼服ですが
当日は昼間行う行事がそのまま夜まで継続しているので
モーニング姿のままでよいとされています。

(175)

オーダーメイドのコートをハンドメイドできる仕立て屋が
極端に少なくなっているようです。
当社にもずいぶん遠方からお客様がいらして
今の時期からコートのご注文をくださいます。

ステンカラーでラグラン袖という既製服によくある
デザインでご注文頂くことはほとんどありません。
皆さんご自分の頭の中に明確な、あるいは漠然とした
イメージを持っておられて、お話をお聞きしながら
それをデザイン画の形にするところからお仕立てが始まります。

(174)
メイド・イン・イタリーの生地は当然イタリアで織られていますが
その生地の原料である羊毛はほとんどオーストラリアか
ニュージーランド産です。
メリノ種と呼ばれる細くて長い羊毛を持つヒツジは
両国で最も多く飼われているからです。

英国で飼われている羊はサフォーク種という顔の黒い種類が主体で
その毛はツィード調のざっくりとした生地の原料になります。

(173)
オーダーメイドといえば寸法の合う服だと
考えておられる方がいらっしゃいます。
なるほどその通りではあるのですが
サイズを測ってから仕立てているのですから
寸法が合うのは当然のことです。
誂えた洋服は既製品より良い服であってこそ
存在意義があります。

既製品がぴったり合うお体の方でも
仕立てた洋服をご着用になれば見た目も着心地も
まるで違います。
そうでなくてはオーダーの値打ちがありません。
マシンメイドとハンドメイドもお値段が違うのですから
当然に出来映えに差があります。

(172)
暑い季節には冬服はタンスの奥にしまっていることと
思いますが、防虫剤はしっかり入れておいてください。

衣類に付く虫は上等な生地が大好きです。
化繊のゴルフズボンなど見向きもせずに
カシミアの上着などを一番に食べようとします。

虫食い穴はかけつぎで補修はできますが
直径5ミリの穴をひとつふさぐのに4千円くらいかかります。

(171)
最近若い方に流行の股上が浅くてヒップ周りが
ぴったりしたズボンを私用に作ってみました。
履き心地がよろしくありません。
が、スマートには見えます。
格好優先で着用するべきズボンに思えました。

上着も丈が短くて胴回りのぴったりしたものが
流行ですが、同様の傾向があります。
熟年はそう流行を気にする必要もあるまいと
再認識しました。

(170)
夏場にはテレビのアナウンサーさんも
薄い色のスーツの着用を心がけておられるようです。
ライトグレーの縞柄をよく見かけます。
やはり暑いときは濃い色の服は見た目に暑苦しいですから。
タレントさんが着る白いスーツは汚れやすいことが
分っているだけに大胆で美しいです。

とくに麻や綿素材の場合は濃紺などの色は適しません。
ベージュやグリーンが素材感とマッチするようです。

(169)
雨の日はズボンの前の折り目(クリーズライン)が消えやすくなります。
濡れた生地を腿で伸ばして温めているのですから当然ではあります。
これを防ぐためにズボンを仕立てた後、
シロセット、オールセットなどと呼ばれる加工ができます。

原理は美容室で行うパーマネントと同じです。
折り目にパーマ液をスプレーして熱いアイロンで押さえ、
クリーズラインを固定します。
クリーニングすると効果が薄れるので再度加工します。
欠点は裾の折り目も消えなくなるので
直しがしにくくなること。

(168)
雨の日は新しい洋服を納めるな、と仕立て屋はよくいいます。
服が空気中の湿気を含んでどうも見た目にしゃんとしないのです。
アイロンがけしてもすぐに縫い目の部分が
膨れた感じになってしまいます。

羊毛は1本1本の毛の表面がうろこ状になっています。
刈り取って生地になったあとでもこのうろこは
空気中の水分の多寡に応じて開いたり閉じたりします。
雨の日はうろこが開いて全体のカサが増えるので
生地がだらだら延びたように見えます。
空気が乾燥していると水分を保持するために
うろこが閉じて服がしゃっきりとして見えます。

(166)
クールビズ3年目となりました。
首相もかりゆし姿で頑張っておられますが
見た目ファッショナブルとはいいにくいようです。

クールビズはエネルギー政策の象徴として着用される
記号的な服装で、ファッションとはまた別次元の問題です。
消防士さんの消防服は火事現場のためのもので
街着として着ては格好がつかないのと似ています。
クールビズにファッション性を求めると
どんどん見当はずれの方向にいってしまいます。

(165)
娘の結婚式にモーニングを着るのだが
ガーネット(柘榴石)のカフス釦をつけてもいいだろうか
というご質問をお客様より頂きました。

原則として礼服の装身具に色ものは用いません。
カフス釦やタイピンにはダイヤ、銀、蝶貝、パール、黒曜石などで
できた黒、白、グレーのものを使います。
略礼服もこれに順じます。

靴は紐靴が望ましいです。

(164)
若い方の間ではもはや既製服という言い方自体が
通用しなくなったとおっしゃる方がいます。
洋服は既製品が当たり前であってオーダー服を
誂える、仕立てるという概念が最初からないのだというのです。

でも当方には20歳代の若い方もよくお見えになります。
スーツ姿で演奏するロックバンドのメンバーもいれば
ヴィンテージ生地できれいな服をお仕立てくださる
新任公務員の方もおられます。
値段も既製品とそう変わるわけではありません。
もうすこし店側がアピール方法を考えることによって
若い方にオーダーの良さを訴えることができそうに思うのですが
よい手段が思いつかずにいます。

(163)2007年4月
岡山天満屋さんの4階にゼニアショップがオープンしました。
イタリアのエルメネジルド・ゼニア社の既製品を中心に扱っています。

ゼニアのスーツはただ今人気絶頂です。
軽く、柔らかい生地を使い
誰の体にも合うようにしなやかで融通の利くラインをとっています。
何よりたいへんに格好がよろしい服です。
価格は30万円~60万円。

体に合わないお客様のためには仕立てもしますが
縫い上がるまでに6週間かかり、お値段も2、3割高くなります。
遠いイタリアで縫うのですからどこまで日本人の注文が
理解されるものかは疑問です。

イタリア製高級既製服ブランドの場合
部分的なシワなどを気にするのは
フェラーリに乗って
「バックするときに後方が見にくい」
とクレームをつけるようなものです。
着てみて格好がよければ他の部分はすべて無視して
着用するべきものに思われます。

(162)
よいお洋服は自動車同様、こまめなメンテナンスを
行うことによって長持ちします。

生地に負担をかけず、着心地を柔らかくするために
甘く縫っている部分も多数あります。
着こんで4,5年すると上着の袖裏やズボンの腰裏などは
ほつれてきて当然なのです。
どうぞご遠慮なく当方へお持ちください。
すぐにお直しさせて頂きます。

(161)
岡山にもTOMORROWLANDのお店ができました。
トゥモローランドは
東京丸の内など全国にチェーン展開している衣料店です。
岡山店は市内錦街6-17、県庁通り沿い。
早速スーツを拝見してきました。
既製品ですが、イタリア調のいいお仕立てでした。
軽くてスマート、都会的なセンスです。
お値段は7万円~13万円くらい。


(160)
既製服はモデルとマネキンには合いますが
一般の方には合わなくて当然です。
人間の体は千差万別で、とても数十種類の体型パターンに
収まるものではありません。

それでも若い方にはそれなりに似合うことも事実です。
若いうちは体の線がきれいであることが理由のひとつです。

右利きの方の多くは年齢とともに右肩が下がってきます。
鏡の前に楽に立ってよく見てください。
首が右に傾き、右肩が下がり
洋服の右脇下に横シワが入っていることに
初めて気がつく方は多数いらっしゃるはずです。
むしろそれが普通といえます。
何十年もの間もっぱら右手だけでカバンを持ってきたのですから。

オーダー洋服の場合寸法が合うのは当たり前で
体型変化に対応した補正に目を配っています。

(159)
ときに羊の毛を刈っているところがテレビで放映されています。
バリカンで根元から刈り取った羊毛は
人間の髪の毛のようにバラバラにはならず
厚手の絨緞のように羊の足元にたまってゆきます。
広げると羊そのままの形を保っていて
まるで羊の皮をはいだように見えます。

毛には羊の皮膚から出る脂がたっぷりとついていて
くっつきあい、絡み付いてバラバラにはならないのです。
よく洗って脂分を取り除いてから紡いで糸にします。

動物園で羊を撫でてやると脂が
べったりと手につくので驚くと思います。

(158)
洋服素材の大部分はいまだにウール(羊毛)
作られています。
シワになりにくい、軽いといった様々な長所を持った
化学繊維も開発されているのですが
総合力で羊毛に勝てず、何より
高級感がないのがつらいところです。

機能に優れた生地を作り出すためには
新しい化学繊維を開発するよりも
羊の品種改良を進めた方が効率的であるようです。

(157)
ズボンはずぼんとはくからズボンです。
チョッキはちょっと着るからチョッキです。
(シャツの上に直接着るからという説もあります)
いずれも日本語ですので、英和辞典には載っていません。

背広は英国の通り名サビルロウが語源ともいわれますが
モーニングに比べて背中部分の生地幅が広いからと
いう方が自然でしょう。

(156)
日本に洋服文化が本格的に入ってきたのは
明治時代のことです。
神戸、横浜といった港町に次々と外国人の居留地ができ
洋服という見慣れぬ服装が日本人の目にふれるようになりました。
袖が筒のようになっているところが印象的だったのでしょう
当時の日本人は洋服のことを「筒袖」と呼んでいました。

高級紳士服地として最初に輸入されたのは
英国ドーメル社の生地だったといわれます。
その後も輸入服地といえばもっぱら英国製で
イタリア製の生地が大量に輸入されるように
なったのは戦後のことです。

一時は英国生地をしのぐまでの量が
輸入されたイタリア生地ですが
最近はまた英国製が勢力を取り戻しています。
つまるところラテン系の華やかさよりも
ブリティッシュな渋みが日本人の好みに合うようです。

(155)

背広の上着の腰ポケットについているフラップを、
仕立て屋は雨蓋(あまぶた)と呼んでいます。
ポケットの中に雨が入らないようにフタを付けているのです。
もともと雨の中でも行軍する
軍服のためのデザインだと思われます。

現在のようなスーツは18世紀の軍服と礼服をベースにして
19世紀のヨーロッパで誕生しました。
その機能性とファッション性が世界中で評価され
現在では地球上どこへ行くにもこれさえ着ていれば
失礼にならないというグローバルスタンダードな
男性用服装になっています。

(154)

ハンドメイドの洋服では、仮縫いという作業を行います。
裁断をしたあと仕付け糸で服の形に仮組をして
お客さまに着てみていただくのです。
寸法や体形に沿っているかどうかをこのとき見ます。

仮縫いは途中までできているという状態ではありません。
お客様がお帰りになったあと、すっかり解いてまた
バラバラの状態に戻します。
直すべき部分の線を引きなおして
それから本縫いにかかります。
むつかしい服の場合は途中まで縫いあがった段階で
もう一度着てみていただくこともあります。
これを中仮縫いといいます。

マシンメイドの場合は仮縫いをしませんが
できあがったあとからでも直せる余地を残しておきます。

(153)
上着の袖口についているボタンは通常飾りであって、
実際には機能していません。
これを本当にはずせるように作るお仕立ても可能で
本開き(本切羽)と呼んでいます。
本来そうあるべきで、近年本開きが流行もしているのですが
実のところ当社では積極的にお勧めはしていません。
本開きにすると袖丈の直しが難しくなるからです。

袖口にボタンホールを開けると
あとから袖口を解いて
袖丈を短くする作業が不可能になります
そう申し上げると洋服に詳しいお客様が
「袖口で直さなくとも袖山を削ればいいじゃないか」
とおっしゃいました。
袖の一番上、肩と接する部分で短くすればいいという意味です。
まことにごもっとも、その通りです。
しかし袖山を削る作業はいささか大仕事です。
なるべくシンプルな直し方を考えた場合
ボタンホールを開けない方が現実的だと考えています。

(152)
スプリングコートの季節です。

花冷えの言葉通り、桜の花の咲くころは寒いのです。
夜桜見物に出かけた皆さんは寒さに震えあがって
焚き火の周りに集まってばかりなのが通例です。

この季節に着るスプリングコートは綿素材が代表的。
埃よけの意味でダスターコートとも呼ばれます。
バーバリーのベージュの綿コートは今でも一番人気です。
高級品なら絹。
グレー、紺無地が一般的ですが、柄ものを使ったり
丈夫さを増すためにウールと混紡した素材もあります。

(151)
ベストの一番下のボタンは留めるのか、外すのか。
ときにそう質問頂くのですが、当方では
「留めてください」とお願いしています。

6つボタン5つガケというデザインがあって
これは一番下のボタンが最初から掛からないように作られています。
しかし一般的な5つボタンのベストなら全部のボタンを留めます。

下釦を外す習慣は19世紀ごろの誤った着用スタイルの
なごりともいえるもので、必然性がありません。
当社のベストは全部の釦を留めることによって
シルエットが確定する形に作っています。
第5ボタンをあけるとときに
ベストの下部からベルトのバックルが見えてしまいます。
そのような着かたは避けたいものです。

(150)
オーダー洋服のいい点としては
当然ながらまず寸法が合うことがあげられます。
着心地がよく長持ちしますし、高級感もあります。

しかし(手前みそながら)当社で作る洋服の
最も大きな利点は「自信を持って歩ける」ことにあると思っています。
ご予算内でとにかく最高品質の服をお仕立てします。
ご着用になる場面をお聞きしてから
歴史的にみて間違いの無い、国際ルールに沿った
デザインを採用します。
これさえ着て行けばどこで誰を前にしても
胸を張って歩くことができる服をお仕立てできることが
当社のオーダースーツ最大のセールスポイントだと考えています。

(149)
DRAPERESというイタリア製のカシミア入り替え上着を
岡山のお客様にサンプル注文頂きました。
明るいグレーに青のウインドペーン(チェック)という大胆な柄です。
イタリアに発注して、1着分だけ航空便で取り寄せることになります。
岡山に到着するまで5日間ほどかかりますし
値段が高くつくので当社ではあまり採用しない仕入れ方ですが
滅多に見かけない生地を入手できます。

同じ上着を「笑っていいとも」でタモリ氏が着用していました。
なるほどこういう方が着るのか、と納得しました。

(148)
現在市街地の洋服店では現在ノータックのズボンが全盛です。
ついこの間までゆったりとしたツータックのズボンばかりでしたのに
一足飛びにずいぶんスマートなラインばかりになってしまいました。

とあるお店の店長さんは
「いっせいに流行を変えてしまえば
お客さんは以前買った服はダブダブのラインで
もう着れないという感覚になる。
全部買い直すことになるから新たに洋服が売れる」
ともう実もフタもない販売戦略を話してくれましたが
流行に従ってばかりいるのもどうかと思います。

とはいえ当社もいつも少しだけ流行のラインを取り入れていますが。

(147)恐縮ですが以下お客様の質問に答えて

自社で縫うのではなく、工場で縫っていただくという意味で
当社でいうマシンメイドは、一般的なイージーオーダーと同じです。
それでも他社で注文した服と当社で注文した服は
相当違うものができあがります。

例えて言うなら工場は絵の具でありテーラー(仕立て屋)は画家です。
同じ絵の具を使って同じ風景を描いても画家によって全く違う絵が
できあがります。
工場は原則的にテーラーが指示したとおりの服を作りますので
テーラーがどのような指示を出すかによって服のできが決まります

縫製工場は全国に多数あります。
中国など海外で縫っているイージーオーダーもたくさんあります。
それぞれの工場によって縫製方法も料金も違います。
腕の差も歴然とあります。
また同じ工場でもたいていいくつものグレードを用意していて
高価な縫いをしたり安価な縫いをしたりもします。

当社では生地、納期、値段など様々な要因によって
そのつど最適と思える工場を選びます。 
お客様の体を見てどう判断するかはテーラーの目にかかっています。
きちんと採寸することは当然ですが
お客様のバストが90cmあるからといって
胸周り90cmの服を作るわけではありません。
実際の服の胸周りにどのくらいの余裕を与えるのかという判断が必要です。
同じバスト90cmの方でも胸の厚みのある方、横幅のある方
反身(反り身)の方、屈身(かがんだ姿勢)の方
怒り肩、撫で肩、前肩など多種多様です。
寸法が同じでも体形によって出す指示は変わります。
 
それ以上に大切なのはお客様がどのような服を望んで
おられるのか、服装へのお気持ちを把握することです。
まったく同じ体型の方が二人おられたとしても
その方のお好みや職業や流行への考え方が異なっていれば
まったく違う指示を工場へ出します。
その結果ずいぶん印象の違う洋服ができあがります。

 台場や本切羽、ボタンホールの糸色変更など指定した場合
多くのテーラーさんではそのつど割り増し料金を言われると思います。
それが本当ですし、実際に費用がかかります。

しかし当社の場合、別料金は一切頂いていません。
良い服を作りたいということが最優先であり
細かい料金設定などは気にしないようにしています。
まずはご予算をお話頂ければその範囲内で
最高の服をお仕立ていたします。
ご都合よろしいときにお気軽に遊びに来て頂ければ幸いです。
まずは多数の生地を見て触っていただき
それから判断なさればよろしいかと思います。
ご質問など何でもどうぞご遠慮なく。

(146)
…これも前回の続きですが…
洋服の裏地にキュプラを使い出したのは
20年ほど前からのことで、
それ以前は主にアルパカを使っていました。

アルパカは独特の風合いを持った毛織物です。
最近はどこの仕立て屋もアルパカをほとんど使わなくなりました。
少々摩擦に弱いという理由もありますが
本当は値段が高いことが最大の要因です。

先日はお客様のご要望で久しぶりに
アルパカの裏地を取り寄せて使いました。
クラシカルでなかなかいい感じです。

当社では裏地や釦のご指定があっても
割り増し料金などは頂いていません。
アルパカはもうほとんど生産中止になっていて
商社の在庫も残りわずかだと思いますので
お好きな方は今のうちにお声をかけてみてください。

(145)
…前回の続きで…
当社が裏地にキュプラを使うのは、
この布が綿花を原料とした自然由来だからという
理由でもあります。
釦も水牛の角を削り出したものやナット(椰子の実)などの
天然素材をお勧めしています。

洋服の表地が羊毛という自然素材なのですから
裏地や釦のほか、外からは見えない芯、パットなども
合成繊維を使わない方がいいように思えるのです。
感覚的なものにしか過ぎないかもませんが。

(144)
既製服の裏地は安価で発色の良いポリエステルが多いのですが
当社では洋服の裏地にキュプラを使っています。
キュプラは綿花の種子を覆う産毛から作られる繊維です。
絹に似たしなやかな感触があり、静電気が起きにくいので
冬服にはとくにお勧めです。
大手製造元である旭化成は
「お目が高いですね、キュプラ」
というしゃれた標語でキャンペーンを行っていました。

なお、キュプラは旭化成が世界的にも
圧倒的なシェアを持っているために
同社の商標であるベンベルグという名前の方が
一般的かも知れません。
仕立て屋はよく「ベンベル」などと略称しています。

(143)
2007年1月14日から毎週日曜日の午後9時,
テレビドラマ「華麗なる一族」がスタートしました。
1960~70年代を舞台とするこのドラマの主人公は、
今や人気絶頂の木村拓哉氏。
テレビの中で彼が着用する洋服は当時の流行を意識して仕立てた
オーダーメイドらしく、なかなかに凝っています。
肩の線が上向きに反り返ったコンケーブ・ショルダーのスーツを
久しぶりに見ました。
カッターシャツは襟とカフスだけが白無地のクレリックというデザイン。
カフス釦が三つ並んでいるところもクラシカルです。