洋服徒然草 2010版


(330着目)貝釦

貝釦はその名の通り写真のような貝の殻を削って作ります。
その昔は釦の材料といえば貝か水牛の角、ナット(ヤシの実)
くらいしかありませんでした。
もしくは芯を洋服生地でくるんで作る「くるみ釦」が多用されていました。
20世紀に入ってから樹脂製の「練り釦」が発達しました。
自由な色、デザインで製作できるために当社でも一時は
ほとんど全ての服に練り釦を採用していました。
エコ志向が高まった最近になってまた自然素材の釦が
見直されてきています。


(329着目)グリーンのスーツ

紳士スーツの色は紺、グレー、黒で8割以上が占められています。
茶色はお似合いになる方が限られているように思います。
茶系の服を着るなら茶色の靴も新調する必要がありますし。

変化のあるスーツを着て見たい方にグリーン系をお勧めいたします。
グリーンといっても鮮やかな緑色ではなく
緑がかったグレーといった方がいいかもしれません。
モダンで落ち着いた印象があり、
会社務めの方でも抵抗なく着ることができます。
無彩色(黒、グレー系)の多い職場にあって個性的です。
緑は自然の色であり、エコ時代によく合うようにも思えます。

(328着目)ツィードの上着

冬になってツィードの上着のご注文をよく頂戴しています。
ツィードは硬くて短い羊毛で織った生地のこと。
ザックリとした手触りが特徴で、暖かくてシワになりません。
英国ハリス島周辺を産地とするハリス・ツィードが有名です。

ハリス・ツィードは替え上着に向いていますが
スーツを仕立てることはお勧めできません。
ズボンに強い力がかかったとき、お尻が破れてしまいます。
ツィードは少々乱暴に扱っても張りを失わないという意味で
丈夫なのですが、引っ張る力には強くありません。

(327着目)レディス・スーツ

女性からスーツのご注文を頂戴したときも
男性用生地を使い、紳士服の工程で縫い上げます。
単に上着の打ち合わせを逆にするだけでなく、
バストの膨らみに対処が必要ですし
ウエスト、ヒップの比率も違います。
お客様のご注文にはまずまず対応していますが私自身
本当に満足できる洋服を縫い上げることはできずにいます。
女性的な、フェミニンなラインが出せないのです。

技術的な問題もさることながら
女性の美意識を我がものとすることが難しい、
というよりおそらく私には無理でしょう。
女性服を仕立てる男性デザイナーもいらっしゃいますが
やはりちょっと中性的な感覚をお持ちです。

(326着目)ダブル襟付きベスト

シングルの上衣にダブルの襟付きベストを合わせるのはおかしいでしょうか
というお問い合わせがお客様からありました。
少しもおかしくありません。
というか一部礼装を除いて間違ったデザインというものはありません。
オーダーの洋服は1着1着お客様と仕立屋が相談の上で作り上げるものなので
百着あれば百着全部異なるデザインになります。
どれが普通でどれが異端ということにはなりません。

(325着目)工場と協力して作るオーダー洋服

地元の新聞社さんが取材に来てオーダー洋服について書いて下さいました。
文中の「縫製工場と協力するマシンメード」という表現が気にいりました。
ハンドメイドの服は当社でお仕立てしますが
マシンメイドのお洋服は裁断から縫製まで工場にお願いしています。
1着ずつ注意点を指示して工場の縫製方法との
折り合いを探りながら作って頂いています。
縫製工場も物作りのプロですので、きちんと説明すれば
仕立屋がイメージする方向の服を縫って下さいます。
自社でハンドメイドのお仕立てをしている仕立屋だからこそ
縫製の指示もできると自負しています。

なお新聞表記は「メイド」ではなく「メード」に統一されています。

(324着目)仮縫い

ハンドメイドでお洋服を仕立てて頂く場合、
途中で仮縫いを試着してみて頂きます。
マシンメイドでは仮縫いはいたしません。
手を抜いているわけではなく、どちらにせよ当然寸法は合わせます。

ハンドメイドの場合、当社独自の理論に基づいた型紙を起こします。
その理論通りでお客様の体に合うかどうかの実地検証が仮縫いです。
マシンメイド  は縫製工場が開発した型紙で裁断しているのですから
パターンは工場に任せざるをえません。
マシンメイドなら仕立て上がりをみてから欠点を直した方が確実です。

(323着目)アイロン掛け

お客様が以前お仕立てした服を持参されて
アイロン掛けを頼まれることがあります。
仕立屋のアイロン掛けはシワを伸ばしているというよりも形を整えるために行います。
洋服はアイロンの熱と蒸気によって形を変えることができ
良い形を作ってから冷ますときれいなラインで固まります。

上着の胸は丸い立体感を感じさせ、下襟はふんわりと返るように形態を作ります。
膝の出たズボンもアイロン操作で膝が内側にカーブした
仕立て上がりのラインに直すことができます。
とくに料金は頂いておりませんので
気になるときはどうぞお洋服をご持参ください。

(323着目)県外のお客様

当社のお客様の4割ほどがわざわざ県外からいらっしゃる方で
インターネットで当社を見つけて下さるのは30歳代の男性が中心です。
東は東京、西は九州からお出でになってハンドメイド・スーツの
ご注文をくださるお客様も(失礼ながら)必ずしも大金持ちというわけではなく
高速バスで来岡される方もよくいらっしゃいます。
自分の希望通りの洋服を作りたいと思っても
都会でも地方都市でも仕立屋がいなくなっているからです。

ときには私が出張していることもあります。
できましたら来店前にメールかお電話ください。
岡山駅までお出迎えにあがります。

(322着目)仕立屋のイージーオーダー

マシンメイドの洋服はどこかの工場で縫うのですから
どこの店で注文しても同じ服ができる、というものではありません。
採寸にもそれなりの技術が必要ですが
もっと大切なのは体型補正です。

イージーオーダーのスーツだけを売っているお店では
お客様に生地とデザインを選んで頂いてメジャーで採寸し
寸法票と生地を工場へ送ることが仕事です。

実際に服を仕立てたことがないと
例えばお客様が首のところにシワが寄ると指摘されても、
なぜそこにシワが出るのか、どうすれば消えるのかが分かりません。
百人のお客様がいれば百通りある体型に沿うよう
工場に指示する必要があります。

(321着目)蝶ネクタイ

下の写真もそうですが、管理人はこのごろよく蝶ネクタイをしています。
実はこれ、本当の蝶ネクタイではありません。
上写真のように、普通のネクタイを細い方(小剣といいます)から
3分の2くらいのところで切ったものです。
切り口は三角に折って手縫いします
細い方を首に巻くと蝶ネクタイになります。
結び方はごく普通の蝶結びで、少し練習すれば誰にでもできます。
太い方は胸ポケットに入れると揃いのポケットチーフになります。

(320着目)30年着られる服

管理人の着ているブレザーは20年以上前に仕立てたものですが
現在でも支障なく着ることができます。
ハンドメイドで丈夫に縫っているためでもありますが
ポイントはメンテナンスをしっかりしていること。
洋服はほつれる部分はほつれるようにできています。
袖の付け根内側、裾の方の裏地など内側部分が最もほつれます。
傷んだ部分をその都度直せば30年以上着ることも可能です。

一般家庭の自家用車は20万キロメートル走れば良い方ですが
タクシーは最低50万キロ、ときには60万キロ以上も走ります。
傷んだ部分をしょっちゅう小まめに直しているからです。
洋服も同じですね。

お洋服がちょっと傷んだなと思ったらご遠慮なくご持参ください。
すぐにお直しいたします。
実際には20年着るとさすがに飽きて
袖を通さなくなるのですが。

(318着目)ハンドメイド

ハンドメイドとは文字通り手縫いの洋服のことですが
上着の背中心や脇線、肩線などの部分はミシン縫いします。
家の建築に例えるなら柱を立てる段階でミシンを使って
壁塗りから床天井作りに至る
ほとんどの部分は職人さんが針と糸で手縫いしています。
縫う以上に大切なのはアイロンで、生地をお客様の体の線に沿って
曲げていく「くせ取り」という作業を行います。

マシンメイドの服は自動車の組み立て工場と同じく
何十人もの職人さんが流れ作業で1着の服を縫いますが
ハンドメイドの場合は一人の職人さんが1着のお洋服を
最初から最後まで縫い上げてしまいます。

(317着目)オーダーシャツ

初めてシャツをオーダーして下さったお客様の多くが
ウエスト周りのフィット感のよさに感激してくださいます。
既製のワイシャツは胸回り寸法を基準にして仕立てられているので
多くの場合ウエスト周りがだぶつき気味になっています。
普段既成シャツを愛用されている方は「そんなものだろう」と
たいして気にせずにいるのですが
オーダーシャツを仕立ててみるとお腹がすっきりして見えるので驚かれるのです。

現在2着で16000円で素材は綿・ポリ半々のものをお勧めしています。
肌触りがよくてシワに強い点が長所です。

(316着目)ジェントルマンの極意

小学館から「今ベールを脱ぐ ジェントルマンの極意」
(1400円)という本が上梓されました。
ヒゲの殿下と呼ばれる寛仁親王の名前で出版していますが
主な内容は殿下と3名の服飾関係者との対談です。
そのうちのお一人がいつも洋服について分からないことをお尋ねしている
東京のテーラーのご主人ですので、早速拝読させて頂きました。

いい内容です(といっては失礼ですが)。
ファッションは基本的には着る方の自由なのですが
一通りの基本を知って、その上で変化をつけることが肝心です。
何も知らずにいきなり好きなように着ていては
和服を左前に着るがごとく、直しようのない服になってしまいます。
我々の着ている洋服の元々のスタイルを知る上で貴重な本だと思えます。

(315着目)急ぎのお仕立て

お客様から来週の結婚式用に今から略礼服を仕立てることができるか、
と急なお電話がありました。
1週間あればできます、とお答えして急ぎ準備しています。
しかしこれはお馴染みのお客様なので型紙もあり、
お好みも分かっているからこそできる対応です。
通常ならできあがりまでまず3週間は欲しいところ。

職人さんの手は限られているのですから
現在仕立てている服を後回しにして急ぎ仕事を優先させることになります。
他のお客様に密かにご迷惑もかけているのです。
自分の注文した服の出来上がりがずいぶん遅いな、と思われるときは
他の急ぎ仕事が入ってきたのかも知れません。

(314着目)サビルロウのビジネスマン

10日間英国ロンドンに滞在していたお客様が帰国されました。
かの地ではサビルロウの紳士服店やビジネスマンの服装を見ていらしたとのこと。
サビルロウはロンドン市内にあるほんの200メートルほどの通りの名前ですが
ここにスキャバルを始めとする有名テーラーが軒を連ねています。
既成服も幅を利かせている中、本格仕立てのお客さんはは別格という感じ。
仕立て服の工房は店の地下にあって、通りに面したガラスをとおして
仕事をしている様子が見えるのだそうです。

スーツは圧倒的に総裏のサイドベンツが多く、
背の高い英国人にはまことによく似合っているとのことでした。

(313着目)オーダー・スーツの店

最近10年で注文紳士服の店は激減しました。
戦後起業した仕立屋店主たちが80歳近くなり
跡継ぎがいない場合はそのまま廃業してしまうからです。

その一方で新規のオーダー・スーツ店も次々と開業しています。
しかし新規店オーナーさんの多くは技術があるわけではなく
寸法を取って生地といっしょに工場へ送ることが仕事です。
でき上がった洋服をお客様が着て肩回りがきついと言われても
なぜきついのか、どうすれば楽になるのかは分かりません。

こんなときはどんな洋服を着ればいいのか、といった
お客様の質問や要望に応えられる仕立屋として
残っていきたいと思っています。

(312着目)米国の葬儀礼装

ただ今上映中のハリウッド映画「ソルト」(アンジェリーナ・ジョリー主演)の中で
米国副大統領の葬儀のシーンがあります。
アメリカ、ロシア両国の大統領が出席するのですから
最も格式の高い葬儀といえます。
参列の男性はそろってダークスーツ(濃色の無地)でした。
アップになったときにようやく気がついたのですが
アメリカ大統領はごく目立たないペンシルストライプを着用していました。
ダークスーツは縞柄でもよいとは聞いていたのですが
スクリーン上とはいえ実際に目にしたのは初めてです。

ネクタイは各自それぞれで、決まりはありませんでした。
小柄の紺系が主ですが黒に近い濃色無地も一人だけ見え
結構大柄のレジメンタルを締めている男性さえいました。

映画を見るときはいつも登場人物の服装に注目しています。
西欧映画はたいへん衣装に気を使っていますから。

(311着目)裏地

裏地は原則として表地と同系統の色を使いますが
思い切り派手な色柄を使っても
普段見えるわけではないのでかまいはしません。
しかし三つ揃いにした場合はベストの背中も同じ色の裏地が
付きますから、上着を脱いだときに目立ちそうです。

当社ではキュプラ(綿)の裏地を主に使いますが
ポリエステル製にも長所はあります。
軽量、極薄といった機能性を持たせることができますし
発色や柄出しもきれいです。

(310着目)Vゾーン

上着を着たときにできる襟元の開きをVゾーンと呼びます。
ネクタイやシャツがのぞき見えるV字型の部分です。
第1釦の位置が高くなるとVゾーンは狭くなり
低くなると広くなります。
二ツ釦より三ツ釦にした方が狭くなるように
釦を多くすることはVゾーンを狭くすることであり
襟元をしっかりと閉めるのですから防御の意味合いがあります。
軍服や作業服などの実用服はなるべく上まで釦を付けて
Vゾーンを狭め、防御性を高めています。

逆にいえばVゾーンが広いほどエレガントだとされるので、
タキシードは一つ釦にしてVゾーンを広くとる場合が多いのです。
最近は背広でもVゾーンが次第に広くなる傾向にあります。

(309着目)チェンジ・ポケット

上着の右腰にチェンジ・ポケットという小さなポケットを付けることがあります。
チェンジとは小銭のことで、コインを入れるためのポケットです。
先日渡英したお客様の話では、彼の地では実際に
このポケットがたいへん役に立っているそうです。

チェンジ・ポケットにはいつも1ポンド(130円)もしくは
50ペンス(65円)硬貨を数枚入れておき、
レストランなどでちょっとしたサービスを受けたときは
チップとしてこれを渡します。
いちいちサイフを取り出す訳にはいきませんし
チェンジ・ポケットに手を入れてぱっとコインを渡せれば格好もいいですね。

チケット・ポケットと呼ぶこともあって日本では電車の切符を
入れるポケットだと決めておくと便利です。

(308着目)センターベント

上着の背中の中心が割れているものがセンターベントで
日本語では「馬乗り」といいます。
昔(モーツアルトが生きていた時代)の上着は今より丈が長く、
それを着て馬に乗るときに、上着の背中がさばきやすいように
センターベントを切っていました。

活動的、というイメージがあるのですが
上着丈が短くなり、馬にも乗らなくなった現代では
実のところさほど機能的な意味はありません。
むしろベントのところからシワになるので、
お客様には背中を切らないノーベントをお勧めしています。

既製服でも略礼服の多くがノーベントになっているのは
フォーマルな場で粛々と着る服という
ムードを演出するためです。

(307着目)二つのボタン

写真はシングル二つボタンの上着を上から見たところです。
上(手前)のボタンは足が付いて生地から浮き上がっていますが
下(奥)のボタンは足がなく、生地に張りついています。
着たときに掛けるのは上のボタンだけで
下のボタンはかけないからです。
なぜ下ボタンをかけないかについては
こちらをごらんください。

市販の上着ボタンは機械付けのために上下とも足が付いていますが
どうも見ていて気になります。
持参くだされば付け直しいたします。

(306着目)ダンヒルの看板

ダンヒル・ショップがサッカー日本代表チームの
写真を店頭に飾っています。
すごくカッコイイです。
選手もいいけれど左側にいる監督さんなど
今までで一番スタイル良く撮れているのではないでしょうか。
ダンヒルも張り切って良いスーツを着せたのでしょうが
それにも増してカメラマンさんが頑張っていると思います。
単に全員が揃いのスーツを着てこっちに向かって歩いている
最中にシャッターを切りましたと、いう写真ではないでしょう。

当社ホームページの上着の写真でも実のところ
裏に回るとウエストのところをピンでつまんで
ラインを出していることがあります。

(305着目)ズボンの語源

ズボンの語源については以前から不審でした。
江戸時代には西洋人の履く段袋と呼ばれていたようです。
段袋とは大きな袋の意味で、現在でも麻袋などをそう呼ぶことがあります。
幕末のころこれを軍服として採用するにあたり、当時の幕臣が
足がズボンと入ることからズボンと名付けた。
と私は教わっていて、この欄にも以前にそう書いた覚えがあります。

ところが先日手元の広辞苑を見るとズボンの項目には
フランス語のjuponのことだと掲載されているではありませんか。
そうなの?

広辞苑とはいえ、どうもこの説も確定的ではないらしい。
江戸時代の日本の職人たちは股引(ももひき)という
細いズボン様の衣服を着用していました。
これに比べると西洋渡りのズボンは確かにずぼん!と足が入る。
やはりこちらが語源ではないのか、と思うのですが…

(304着目)羊の毛皮

夏前にはテレビや新聞で羊の毛を刈る映像がよく出てきていました。
人間の散髪と同様に根元からバリカンで毛を切っているだけなのですが
映像ではまるで毛皮を剥いでいるいるように見えます。
刈ったあとの羊毛は1枚の羊の毛皮の形をしていて、
トラ皮のように床の上にばさっと広げることができます。
http://www.geocities.jp/dekkerarn/ke/ke.html(毛刈りの様子)

羊の体表からはポマードのような脂が分泌されていて
毛の根元の部分にべっとりとついています。
この脂の粘着力で全部の毛がくっついているので
刈った毛が1枚の毛皮の形に繋がってているのです。

動物園などではよく羊を撫でさせてくれますが
手にべっとり脂がつくので皆さん驚いています。
この脂は美容に良く、スキンクリームの原料となるそうですが。

(303着目)未来のコスチューム

当店の壁にかかっている版画は1971年にダリが
スキャバル社のために描いた「未来のコスチューム」です。
スキャバルは1938年にベルギーで開業した紳士服地商社(マーチャント)ですが
現在は英国ロンドンを本拠地にしています。
スキャバルの生地は
「最高の原料を使う」「原料のコストは削減しない」ことがモットー。
オバマ大統領も就任早々スキャバルでスーツを仕立てた、
と同社は宣伝しています。
近年はイタリア勢に押されてやや苦戦しているかに見えますが
英国代表として当時も今も良質かつ高価な生地を扱っています。

(302着目)ドレスシャツ

ドレスシャツ、ワイシャツ、カッターシャツは歴史的には少々違う物ですが
現代では実質的に同じものと考えて差し支えありません。

・ドレスシャツは英語ですが、とくに礼装用に限らず
スーツの下に着るシャツ全般を指して言います。

・ワイシャツは英語のホワイトシャツの日本語読み。
白シャツの意味ですので色物はカラーシャツと呼んだりします。

・カッターシャツは西日本で使われる呼び名です。
大正時代、大阪の洋服メーカーだった美津濃が第一次世界大戦に
日本が「勝った」ことを記念して商品名にしたといわれています。

同じ品でもセレクトショップではドレスシャツ、スーツの下ならワイシャツ
学生さんが着るものはカッターシャツと場に応じて呼び分けているようです。

(301着目)上着の肩の内側

上着の着心地を決めるのは肩回りです。
普段は裏地に隠れて見えない肩の内側には
パットのほかマクラ、毛芯、フェルト、ベンベル、
バスという馬の尻尾の毛で織った布など
裏附属と呼ばれる多数の生地が重なりあっていて
重ねる方向や癖の取り方、分量は仕立屋ごとに違います。
一つ一つに品質の良し悪しがあって、お値段も違います。
着心地は寸法だけの問題ではなく
洋服の中に入っている裏附属の置き方で異なります。

(300着目)百閒先生の三つ揃い

写真は「内田百閒文学賞」応募チラシに印刷された
岡山出身の文豪内田百閒(ひゃっけん)の背広姿です。
夏目漱石の弟子である彼は明治、大正、昭和を生きました。

スタンドカラーのシャツにネクタイを締め、
三つ揃いのスーツを着用しています。

戦前の紳士は季節にかかわらず三つ揃いを着ていました。
カッターシャツは20世紀初頭まで下着であり、
下着姿で人前に出ることはできなかったからです。
彼は学校の先生もしておりましたのでベスト(ウエストコート)は必需品でした。
戦後になってラフなアメリカン・ファッションが輸入され
ベストなしのスーツが増えています。
もっとも当社では今でもなるべく三つ揃いをお勧めしていますが。

(299着目)ダンヒルの織りネーム

商社から生地を仕入れると、生地とセットで織りネームが送られてきます。
スキャバルやドーメルは自社で何種類もの生地ブランドを作り
ブランドごとに違うネームを付けています。
ゼニアもトロピカルやトロフェオなどたくさんのブランドを作っていますが
織りネームはそれほど細かく種類分けしていません。
ダンヒルの場合はどの生地にも同じネームを付けてきますが
数年たつとデザインを変えてしまいます。
写真の一番上のものが最近3年ほど使われている最新のデザインです。
当社の引き出しにには各社歴代の織りネームがたくさん溜まっていますので
メーカーの名前さえ合っていれば最新のネームにはこだわらず
生地のイメージに合うものを裏地のところに付けるようにしています。

(298着目)ネーム

当社でお仕立てする上着には通常右内側にネームをお入れします。
前を打ち合わせたとき左側よりも下になり、見えにくいからです。
苗字を入れることが多いのですが、頭文字やフルネームを
希望される方もいらっしゃいます。
上写真のお洋服では普段見えない襟裏に横文字でネームをお入れしました。

洋服にネームを入れるのは日本人だけの習慣で、
着物の紋付からの発想ではないかと思われます。
英国のテーラーから
「日本人はなぜ上着に自分の名前を入れるのだ?盗られるのか」
と尋ねられた人もいるとか。
最近はこの日本独自の習慣がおもしろがられ
外国でもネームを入れるテーラーが出てきたと聞いています。

(297着目)生地耳の織り込み文字

洋服生地の耳にはよく生地情報が織り込まれていて
この文字が読める方が表側です。
写真では エルメネジルド・ゼニア****エレクタ と読める下半分が生地の表側で
写真の上半分は裏側が出ています。
この耳文字はオーダー用の生地に織り込まれているもので
テーラーとお客様に見せることを主な目的にしています。

同じゼニアでも既成服になる生地は織物工場から縫製工場に直送されるので
生地耳に情報を織り込む必要がありません。
工場にとっては耳文字がない方が都合が良い点もあります。
耳文字を織り込むとその部分だけ生地の厚みが増します。
織機を使って1反、60メートルの生地を織っていくのですが、
最後にこれを巻物にしていくと耳文字のある側だけが膨らんで
きれいな円筒形に巻けないのです。

(296着目)靴擦れ(くつずれ)

ズボンの裾の内側後ろ半分には靴ずれというものを付けます。
オーダー洋服の場合はよく生地の耳の部分を利用して
靴ずれを作っています。
ズボン裾の後ろ部分が床面に当たって
擦り切れる事態を防ぐために付けているものです。

裾の真後ろに向かって斜めに付け、
ズボン本体の裾から真後ろ部分で1、2ミリはみ出させます。
ここが床面に当たって擦り切れますが、ズボン本体には傷が及びません。
靴ずれは消耗品です。
擦り切れてほつれが見えたら、傷が本体に達する前に取り返る必要があります。

(295着目)余り生地

できあがった洋服には余り生地が添えられていることと思います。
虫食い穴ができたときや直しをするときにあった方が便利です。
なくしてしまうお客様もよくいらっしゃって、なくても何とかするのですが。

余り生地は適当に返しているというわけではなく
ハンドメイド洋服の場合は伝統的な生地の残し方があります。

写真はベージュのブレザーと茶色のズボンをお仕立て頂いたお客様へ
お返しする余り生地です。
上着は上襟が取れるだけの量を残しています。
服が体型に合わないときは上襟を作り直すことがあるのです。
また昔は襟が擦り切れるほど長く着たので
そのときはこの余り生地を使って上襟を作り直します。
ズボン生地の耳の部分を残しているのは
裾の内側に付いている靴擦(くつずれ)を作り直すときのためです。

最近はそんなお直しをすることが滅多にありませんが
昔からの習慣でこれだけの余り生地をお返ししています。

(294着目)アイロン台

洋服のアイロン掛けはご家庭では難しいかと思います。
洋服は和服と違って立体的にできているために
平らな台の上ではアイロンをかけることができないからです。

仕立屋はどこも大きくて頑丈な台か机を持っていて
その上にアイロンを当てる部分に応じた何種類もの「馬」を乗せて使います。
写真右端の馬は上着の肩やズボンの前身用
左は上着の袖専用です。
上着の前身は一番奥の大きな馬の上で
やたらと重いアイロンをうんと熱くして使います。

熱いアイロンでも焦げないよう当て布を厚くして霧の量を調整します。
霧吹きはたっぷり水が入る園芸用のものを使っています。

(293着目)上着の一番下の釦

上着の一番下の釦は留めません。
詳細は当HP上の  http://london.or.tv/info.html
に画像入りで掲載しましたが
着こなしとか流行の問題ではなく
設計上留められないデザインになっていて、
留めると不自然な横シワが出てしまいます。

ところが世間では全部の釦を留めている方が多いのも事実です。
最近高校の制服にブレザータイプが増えていることもその一因と思われます。

高校のブレザーも基本的に一番下は留めないデザインになっています。
ところが従来主流だった詰襟の学生服は全部の釦を留める設計になっています。
両者が混同されて高校の制服はすべからく釦を留めるべきだと
思われているのではないでしょうか。
高校のときそうしたブレザーを着ていた生徒は
大人になっても同じ着方をするのかも。
先生方もスーツを着る機会が減っているので
自信をもって指導することができなくなっているようです。

(292着目)5つボタンのベスト

写真は最もオーソドックスな5つボタンのベストです。
このデザインの場合、釦は5つとも全部留めます。
前合わせの線が上から下まで直線になっているデザインでは
すべてのボタンを留めるよう設計しています。

一番下の釦は外すべきだと主張なさる方もいらっしゃいますが
それが正式だという根拠があるわけではなく
外した方がおしゃれだという考え方によるものです。
19世紀のしゃれ者が下釦を外していたという逸話も一因でしょう。

6つ釦5ツ掛けというデザインもありますがこの場合は
一番下に付いているのは飾り釦です。
留まらない位置についておりますので、当然留めません。

(291着目)肩下り

上の二つの写真は同じ上着を同じ人体(マネキン)に着せたものです。
しかし左写真よりも右写真の方が服がきれいに見えます。
マネキンは左右対称で、標準的な肩線に作られています。
しかし実際の人間の体はマネキンのような理想形ではなく、もっと複雑です。
オーダーの上着はご注文下さったお客様のお体に沿うようにお仕立てしているので
マネキンの肩線に合うとは限らず、服が落ち着かないことがよくあります。

ご注文下さったお客様は一般の方よりも上がり肩です。
マネキンの肩にパットを入れて実際のお客様の肩に近い線を出し
服を着せると右写真のようにきれいにそぐいます。
オーダーの上着は注文主の肩線に合わせて仕立てるので
着用したときに落ち着きが良く、1日中着ても楽な筈です。

既成服は標準的な肩線で作るので、店頭に飾ったときに美しく
洋服屋はこれを「掛けが良い」と表現します。

(290)アイロンを当て切る

洋服のお仕立てにはアイロン技術がたいへん重要になってきます。
洋服生地は経糸と横色で構成された金網のような構造になっていますから
アイロン操作によって立体的な体の曲線に合うように
形を歪めることができるのです。

仕立屋は概してアイロンは重いほど、熱いほどよく効くと考えています。
実際には適温適度があるのですが、私の父などはサーモスタットが
振りきれるまでやたらと熱くするのが好きです。
アイロンを当てる部分には当て布をして霧を振り
体重をかけて自分のイメージする形になるまでじっと押さえつけます。
当て布を外したときに湯気が上がるようではまだ不十分。
生地が乾燥しきったときに形が決まるので、その瞬間を待ちます。
これを「アイロンを当て切る」といいます。

(289着目)ルパンの着るマント

来年公開予定の映画「ルパンの奇巌城」は
重要なシーンが岡山、高梁で撮影されます。
先日プロデューサーさんが当社にお見えになって
山寺宏一さん演ずるルパンの衣装作成を依頼されました。
様々なデザイン画を起こしましたが、ルパンの象徴はマントです。
写真はだいたいの感じをつかむために別布で試作してみたもの。
本番ではやはり黒色生地を使おうと考えています。
昭和10年発行の専門誌に掲載されていた裁断図から
型紙を起こしたオリジナルデザインです。

マントは本来防寒のためのオーバーコートですが
怪人が身を隠すための衣装という役割もあります。
ドラキュラ伯爵が典型ですね。
仮縫いしてみるとなかなかカッコイイので
私用に仕立てて来冬着て歩こうと思います。

(288着目)アマブタ

上着の腰ポケットは上の写真のように蓋の付いた
フラップ・ポケットが一般的です。
あのフタを雨蓋(あまぶた)といい、ポケット内部に
雨やホコリが入らないように付けています。
軍服や狩猟服は雨の中でも着るので、フタがないと
ポケットに入れたものがびしょ濡れになってしまいます。
現代のスーツはナポレオン時代の軍服の子孫です。
雨の中で着ることはありませんが、
当時のなごりとしてフラップポケットにしています。

タキシードの祖先は軍服ではなく室内で着用する礼装なので
腰ポケットに雨蓋は付いていません。

(287着目)シングル上着のピークドラペル
下写真はシングルでピークドラペル(剣襟)に仕立てた上着です。

現在街で見かけるスーツ上着の9割くらいは
前合わせがシングルで、襟はノッチドラペルになっています。

現在のスーツの原型は詰襟の軍服です。
詰襟上着の襟周りをひっくり返して着ると自然にノッチドラペルの形になるので
シングルの上着はノッチドラペルに作るのが普通になっています。
学生服のような詰襟の服とスーツの上着は見た目がまるで違いますが
設計図上では同じ形をしているのです。

しかしそれは昔のお話。
現在では襟の形はデザインに過ぎないのでどのような形にでもできます。
最近はシングルでピークドラペル(剣襟)の上着もよくお仕立てします。
ぺ・ヨンジュンさんの上着はもっぱらこのデザインです。

なおカラーとは上襟のことで、ラペルとは下襟のことです。

(286着目)服部先生のDVD

東京渋谷で金洋服店を経営する服部晋先生が
ジャケットとパンツの補正方法を記録したDVDを
発行されたので早速購入しました。
2巻で8千円。

先日はお客様が古本屋さんでみつけたという
昭和10年発行の洋服の仕立て方の本を見せてくださったので
裁断図をコピーさせて頂きました。
内容は現在私たち仕立屋が実践している方法とまったく同じです。
当時から進歩していないというよりも
70年前すでに洋服の仕立て方は完成の域に達していたのでしょう。

仕立屋が滅びようとしている現代において
こうした資料はとにかく手に入れておかないと
ハンドメイド洋服のお仕立て方というものがこの世から消えてしまいます。
もしかすると当社が日本で最後の仕立屋になるかも知れません。

(285着目)ダンヒルの釦

写真のダンヒル紺色メタル釦がありますかという
メールを全国各地の方から年に2、3回頂戴します。
クリーニング屋さんからも「洗っていると表面部分が
取れてしまい困っている」いうご相談の電話があります。
あながちクリーニング屋さんが悪いともいえないのです。

このボタンは販売用ではなくダンヒルの
紺無地ブレザー生地を買うとセットでついてくるもので
既成品のブレザーにも10年以上前に限定的に使われていました。
七宝と金属を接着することに無理があり
10年も経つと剥離しやすくなります。
ご相談があれば今でも商社に注文して必要数を取り寄せています。

(284着目)メイド・イン・ジャパン

テーラーロンドンという名前の当社が扱う生地は
半分以上が英国製です。
約3割はイタリア製で、コーデュロイや別珍はドイツのニーディック社製です。
現在1割くらいある日本製生地を、これから増やしていこうと考えています。

御幸、大同といった大手メーカーの洋服地だけでなく
日本では尾州ものと呼ばれる生地がたくさん織られています。
尾州(びしゅう)とは愛知県北西部のことで
奈良時代から織物産業のメッカであり、
明治以降は日本一の洋服生地の産地となっています。
現在のトヨタ自動車もこの地で織物機械の製造を始めた
豊田自動織機が源流です。
生真面目な日本人が作った洋服地は機能性に優れ
シワになりにくいという特徴があります。
何よりメイド・イン・ジャパンを応援したいという
気持ちが強くなっています。

(283着目)ダブルの上着

シングル上着全盛の昨今ですがダブルのご注文も
10着に1着くらいの割合で頂いています。
写真のような4ツ釦上掛けが一般的です。

元々シングル、ダブルのどちらが正式ということはありません。
それが証拠に昭和天皇はシングル三つ揃いをご着用でしたが
今上天皇陛下は公式行事においてはいつもダブルのスーツを
休息時にはシングルのブレザーを愛用なさっています。

ダブルを着るとベストが見えませんが
陛下のスーツを仕立てていらっしゃる先生にお聞きすると
「毎回ちゃんと作っています。それが本来だから」
とのことでした。

(282着目)エルボー・パッチ

写真は上着のヒジに付けた変形のエルボー・パッチ。
本来は狩猟服のためのデザインです。
うつ伏せに寝て猟銃を構えた時
地面に接する上着の両ヒジを保護する役目があります。
立って銃を撃つときは右肩に銃床を当てるので
この部分にもショルダー・パッチを付けます。
素材は革か合成皮革ですが、当社では
生地と馴染みのよい合皮(エクセーヌ)を使っています。

(281着目)ノーフォーク仕立て


英国ノーフォーク州で19世紀に考案されたというノーフォーク仕立ての上着です。
背中から見ると肩にヨーク、腰にバックベルトを付けていますが
最大の特徴は背中央がプリーツ(観音開き)になっていること。
当時はゴルフや狩猟に使われ、腕を前に出したときに背巾が伸び
腕が動かしやすい構造になっています。

写真はライダーの方からバイクのハンドルを持った
姿勢でも楽なスーツが欲しいというご注文お仕立てした
ノーフォーク・スーツです。
風が入らないように袖口を絞れるデザインになっています。

(280着目)20年前のコー

写真は管理人が20年以上前に自分用に仕立てた
ハーフコートですが今でも現役で着用しています。。
以前はお葬式などがお寺で行われることが多く
冬は本堂前のテントが受付や待合所になっていました。
寒風吹きすさんでたいへん寒かったので
黒いコートが大活躍していました。

洋服は自動車と同じく、こまめに手入れすれば驚くほど長い間
着用することができます。
当社でお仕立てした洋服も上着の裏やズボンの腰裏などが
結構ほつれます。
そんなときはご遠慮なく持ち込んでください。
無料でお直しさせて頂きます。