洋服徒然草2011年版  

・(効能)読むと洋服についてちょっとだけ詳しくなります

367着目モーニング

今年秋は立て続けに4着のモーニングをご注文頂きました。
いずれも結婚式用です。
結婚式場には新郎のために創作結婚衣装とも
呼ぶべき美しい服(ロングタキシード?!)が用意されていますが
服の良し悪しが分かるようになった方にはどうも違和感があるようです。
だれが見ても恥ずかしくない礼装を着たいというご要望を持つ男性が
モーニングを仕立ててくださいます。

きちんと仕立てたモーニングコートとベストに
コールズボンを合わせたスタイルはとてもカッコイイのです。

366着目ダブルのズボン

ズボン裾の折り返しのないものをシングル、折り返したものをダブルと呼びます。
もっともこれは日本だけの呼び方ですが。

19世紀まで、すべてのズボン裾はシングルでした。
20世紀にはいってから雨の日に裾が汚れないように
折り返す着方が登場してダブルの起源となりました。
英国の皇太子、あるいはアメリカの紳士が流行らせたと聞きます。

従ってどちらが正式かといえば間違いなくシングルで、
モーニングやタキシードは全てシングルにお仕立てします。

逆にいえばダブル仕立ては行動的な日常服であることを
強調するデザインですのでビジネススーツには向いています。

365着目テーラーロンドン

テーラーロンドンという仕立屋は当社の他に
長野や大阪など日本中に10店近くあります
互いに関係はないのですが、どこも50年以上営業している老舗です。

テーラーとは仕立屋という意味。
当社が創業した終戦直後には、英国の首都ロンドンは
紳士ファッションの頂点に立つ街とされていました。
市内のサビルローには名門の仕立屋が並んでいるので
その地名が明治時代の日本で背広の語源になったといわれるほどです。
(サビルロウ→セビロ? 真偽のほどは不明です)
当社とほぼ同時期に創業した仕立屋はそれぞれの町で
憧れの英国首都ロンドンの名を店名に冠したのです。

近年はイタリア・ファッションが幅を利かせているので
ロンドンが紳士服のメッカだというイメージは薄れているようです。

364着目英国の羊

イタリア製の生地といっても必ずしも
原料となる羊の毛をイタリア国内で産出しているわけではありません。
オーストラリア、ニュージーランドそして近年は中国が
羊毛の3大産地であり、ここから世界各国に輸出されています。

上記の国では主にメリノ種と呼ばれる羊が飼われています。
絵本にもよく出てくる全身真っ白で毛がモコモコした羊です。
刈り取った羊毛をイタリアの織物工場が輸入して織物に仕上げると
イタリア製生地ということになり、耳にメイド・イン・イタリーと入ります。

英国製生地も同様ですが、英国は今でも
サフォーク種という顔の黒い羊がたくさん飼われていて
その羊毛はメリノ種に比べて固くて短いという特徴があります。
英国産羊の毛で織った洋服生地の代表がハリス・ツィードです。

363着目ツィード

羊の毛織物のうち、短くて固い毛ばかりで織った生地を
ツィードと呼びます。
写真左は有名な英国のハリス・ツィード。
右はアイルランドのドネガル・ツィードです。

ざっくりとした野性的な手触りが特徴。
シワに強く軽くて暖かいので冬のブレザーに最適です。
これでスーツを作るという方もいらっしゃいますが、お勧めできません。
摩擦には弱いのでズボンが早々に痛んでしまいます。

362着目一つ釦の上着

上着の前合わせはついこの間まで三つ釦が主流でしたが
最近は2つ釦が多くなり、一つ釦も出てきています。
釦の数が減ると自然にVゾーンが深くなります。
上着の本来の役目は防寒であることを考えると
釦数を増やしてVゾーンを狭くする方が理にかなっています。
前をきっちりと合わせる軍服はその典型です。

釦数を減らしてVゾーンを深くするということは
実用性を離れ、エレガントを強調する意味合いがあります。
タキシードによく一つ釦が採用されるのはこのためです。


361着目釦付け 糸コブの始末

釦を付ける際、ほどけないよう最後に糸を結んでコブ(結び目)を作ります。
このコブが生地の表面に出たままだと格好がよろしくないので
仕立屋が手付けする場合は生地の中に入れてしまう作業をします。

いったん生地表に糸を出し、針が付いた状態で結び目を作ります。
糸が出てきた穴に針先を戻し入れ、
生地を掬うようにして数ミリ離れたところにまた針先を出します。(上写真の状態)
そのまま針を抜き出し(下写真の状態)
糸コブを生地の裏側に引き入れると
釦付け糸は生地表から魔法のように消えてしまいます。

そんなに難しい作業ではないのですが
生地を傷めるとたいへんなので十分な慣れ(経験)と
少しの度胸が必要です。

 


360着目ゆとり量

洋服のご注文を頂くと体のあちこちの寸法を頂きます。
バスト95、ウエスト85、ヒップ100などという数字を
取り寸、あるいはヌード寸と呼びます。
洋服はこの数字に余裕(ゆとり量)をプラスした寸法でお仕立てします。
バスト、ウエスト、ヒップにそれぞれ何センチのゆとりを入れるかは
お客様のお好みを訊いて仕立屋が判断します。

胴回りがぴったりとしたスマートな服にして欲しいというご要望があった場合でも
単にゆとり量を少なくして小さ目の服を作れば良いというものではありません。
ウエストを絞ったラインを出したいならバストはむしろ大きく作ります。
胸回りを大きく、腰回りを小さく作るからこそくびれが強調されます。
7ミリあるいは5ミリのさじ加減を、お客様のお話しをよくよく聞いて調整していきます。

359着目江戸川乱歩の「目羅博士」

 

作家江戸川乱歩は昭和6年に「目羅博士の不思議な犯罪」という

短編小説を発表しました。

登場人物の目羅博士はさほど流行っているとも見えない街の眼科医です。

主人公の青年は彼が東京の「有名な洋服店」に入って

既製品のスーツを買うところを見かけ、犯罪の気配を感じます。

乱歩の文章によれば

「いくらはやらぬ医者だからといって、博士自身がレディメードを着る

はずはありません。といって助手に着せる服なれば、何も主人の博士が

人眼を忍んで買いに行くことはない」からです。

当時すでに既成服は存在していたものの

紳士は仕立てた洋服を着ることが当然だと考えられていたようです。


358着目テング

ズボンの前合わせの右手側をテングといいます。
天狗の鼻のように突き出した形をしているからです。
テングの先にはボタンホールが開いていて
腰裏に付いたボタンに留めるようになっています。
留めなくてもずり落ちることはないのですが
留めた方がズボン全体が安定します。

ハンドメイドしたズボンは
テングの裏側に少しだけ裏地を使う部分があって、
これをテング裏といいます。
通常はほとんど目に付かない部品ですが
面白い裏地があるとここに使うこともあります。

357着目ズボンのファスナー(2)

ジーンズには金属製のファスナーが使われていますが
スーツのズボンファスナーはほとんどがナイロン製です。
一見したところ金属製の方が丈夫そうですが
金属同士がこすれ合うと摩擦ですり減るので
柔らかいナイロンの方がかえって長持ちするのです。

ファスナーの滑りが悪くなったときはご持参ください。
仕立屋では昔から蝋を塗ってアイロンで溶かしこみ
滑りを良くします。
いよいよ固くなった場合は取り替えもできます。

なお正式名称はスライドファスナーで
チャックというのは巾着からきた和名です。

356着目ズボンのファスナー(1)


ズボンの前合わせはほとんどの方がファスナー留めになさいますが
時々趣味的にボタン留めを希望するお客様がいらっしゃいます。

50年前にはファスナー、釦が半々くらいだったと記憶しています。
当時はファスナーを信用していない方が多かったのです。
主にタロンというアメリカ製のファスナーが使われていて、
これはきちんと留めないと勝手にずり下がることがありました。
電車の座席に座っていると正面に立っている人の
ズボン前合わせが開いていて目のやり場に困ることがありました。
当時はこれを「社会の窓が開いている」と呼んでいました。

現在ではオーダー、既成服に限らず日本のYKK社製ファスナーが
圧倒的に多く使われています。
つまみのところをよく見ると小さくYKKの刻印が入っている筈です。
同社の製品は勝手にずり下がることがないという特徴があり、
社会の窓が開いている方を見かけることはほとんどなくなりました。

355着目ツーパンツ・スーツ

夏服はズボンが痛むためにツーパンツ・スーツの注文をよく頂きます。
スーツ用生地は1着分3,2mにカットされていますが
ツーパンツにするには生地の長さが4m以上必要です。
テーラーがストックしている生地はたいていスーツ分の3,2メートルしかありません。
スーツ用の生地は値段が高いので最初からツーパンツ分を
仕入れることは在庫負担が厳しいのです。
後からズボン分を追加することは現実にはほとんどできません。

ツーパンツをご希望の場合は
商社や工場が反物の形で持っている生地の中から
サンプルで選んで頂くことになります。

354着目縞合わせー2

生地を服の形に切ることを裁断といいます。
縞柄の服を裁断するとき、最初に気を付けるのは
背中の中心の縞合わせです。

上着の背中は左右2枚、対称形の生地を縫い合わせて作ります。
通常は首の付け根部分に縞と縞のちょうど中間をもっていきます。
そうすると首下30センチメートルくらいのところの背中心縫い目で
左右の縞が合うようになります。
また襟を付けるときに上襟の後ろ部分と背中上部の縞柄も合うように仕立てます。

しかし「追いかけ縞」というデザインの縞柄がごくたまにあって
この生地はどうやっても縞が合いません。

353着目縞合わせ

縞柄の上着には、あちこち縞合わせしなければならない
部分があります。
代表的なのは胸ポケットで、前身とぴったり柄が合っている筈です。
上襟、下襟の縞柄も左右対称に見えるように仕立てます。

上襟と下襟を斜めに縫い合わせた縫い目をゴージラインといいます。
ここで上襟と下襟の縞を合わせることは
技術的に可能ではあるのですが、
通常は縞が食い違うように仕立てます。
この部分の柄をきちんと合わせると服の左右対称性が強調され過ぎて
宇宙戦艦乗組員の制服のようなマンガ的感覚になってしまうのです。

352着目ラペルピン

洋服の襟穴にラペルピンを挿しておられる方を
ときどきお見受けします。
機能性はなく、全くのアクセサリーです。
長いピンの先にピン先を受けるための金具が付いています。
この小さな部品がなくならないように本体と飾り鎖で
連結させた点がグッドアイデアで、ヒットしたようです。

ちなみにラペルとは下襟のこと。
ラペルの上端の縫い目をゴージといい
ゴージから上が上襟(カラー)です。
ゴージ部分の三角の切れ込みをノッチといいます。

351着目ビジネスサンダル

当社で仮縫いをさせて頂く場合の履き物として
ビジネスサンダルというものを用意しています。
一見革靴のような形でカカトも高いのですが
後ろ部分の革がなくてサンダルのような形になっています。
靴べらなしで履け、脱ぐのも簡単です。
「ビジネスサンダル」で検索すると多数のパターンが
発売されています。
お値段は5千円~1万8千円くらい。

ズボンを履くと革靴としか見えないので
クールビズ時期の事務職の方には便利かも。

350着目ズボンのタック

ズボンの前部分にあるヒダのことをタックといいます。
タックは本来平面である生地に立体感を出すための
縫製上のテクニックです。
人体はウエストよりもヒップが大きいので
ウエストにタックを入れてヒップより小さくなるように作ることが
理にかなっています。
当社ではワンタック(上の写真)もしくはツータックをお勧めしていて
この方が着ていて動きやすいというメリットもあります。

最近の既製スーツのズボンはタックなし(ノータック)が主流です。
タックを無くするとヒップ回りの寸法が大きくできません。
その方がヒップから腿にかけて細いシルエットが出せるという
デザイン上の都合でノータックにしています。

349着目フラワーホールの乳(ち)

襟穴のことを英語ではフラワーホールと呼び、
パーティ会場ではここに一輪の花を挿すときがあります。
ご注文があれば襟の裏側の、襟穴の下4㎝のところにループを付けます。
茎をループに挿すことで襟穴に挿した花が安定します。

便宜上ループといいましたが、仕立屋はこれを乳(ち)と呼んでいます。
乳(ち)は乳紐の略で、輪の形になった紐のことです。
舞台の背景に使う幕の上部には竿やロープを通すために
布製の輪っかが付いていますが、あの輪のことを乳紐といいます。
形が語源だというのですが…どこが乳に似ているのかよく分かりません。


348着目ボタンの数

最近はシングルの上着の8割方が二つボタンで
三つ釦と一つ釦が残り1割ずつくらいです。
釦の数が多いほどVゾーンが狭くなります。
上着は本来防寒のために着用するものなので
Vゾーンは狭い方が暖かく、実用的だといえます。
最も実用性が求められる軍服においては
詰襟やステンカラー(シャツのような襟)にしてVゾーンをなくしています。

逆にいえばVゾーンが広いほど実用性を離れておしゃれになります。
タキシードの多くが一つ釦になっているのはVゾーンを広くして
エレガントを強調するためです。
当社では普段の上着でもおしゃれな一つ釦をお勧めしています。

347着目婦人服

女性の方からもご注文頂くことがあり
これまでたくさん仕立ててきました。
お客様には一応のご満足を頂いているのですが
実のところいまだ出来上がりに納得できずにいます。

紳士服ならこれ以上の洋服を仕立てることのできるテーラーはそう多くあるまい
とばかりに自信満々でお納めできることもあるのですが…
婦人服はサイズとデザインを合わせるのが精いっぱい。
技術的な研究不足も大きいものの、やはり良い婦人服を仕立てることの
できる男性はちょっと中性的な感覚があるようです。私の
ように柔道部出身のガサツな男では掴みきれない
特有のフェミニンなセンスが必要です。

346着目くせとり

ハンドメイドの洋服の最大の特徴は「くせとり」にあります。
「くせとり」とは生地を裁断した後、縫製にかかる前に
アイロン操作によって本来平面である生地を曲面に変えて
縫い上げたときに立体感をもたせることです。

アイロンを使って適度な湿気、高温、圧力を加えると
鉄板を曲げ、叩いて鍋型にするように生地を曲面にできるのです。
今のところ機械化されたという話は聞いたことがなく
人間の手でしか実現できないようです。

人間の体の曲面に沿うように生地を曲げていくので
ハンドメイドの洋服は体をすっぽりと包み込んでくれます。
(写真は出来上がった服にくせをとっているところ)

345着目アスコットタイ

お客様が英文のサイト上からアスコット・タイの設計図のような画像を
プリントアウトして見せて下さいました。
市販されているスカーフ状のアスコット・タイではなく
同サイトにあるような形で作って欲しいというご依頼です。
見たことのないタイでしたが苦心惨憺ハンドメイドで1本だけお仕立てしてみました。

近年はネット等を通じて古今東西のファッション情報が入手できるために
お客様の方が仕立屋よりよほどお詳しいという事柄がよくあります。
とはいえお客様のイメージにあるものを実際に形にするということになると
それが仕立屋本来の仕事なのですが、なかなかに難しいです。


344着目しつけ糸

仕立屋ではシツケ糸という綿糸をたいへんよく使います。
長さ500mほどの綿糸を束ねたものを1カセといい
5カセをひとまとめにした1玉という単位で糸屋さんから買っています。
写真が1玉=5カセです。

仮縫いの服はこの糸で縫い上げます。
本縫いのときは下準備に使います。
たとえばズボンの裾を上げるときには
まずは望みの股下長さを決めてアイロンで形を決め
シツケ糸で仮留めします。
その後本番用の絹製マツリ糸で裾上げして、
完成したらシツケ糸は抜いてしまいます。

あらゆる部分でこの作業を行うので、
縫製の途中経過ではシツケ糸が大活躍するのですが
完成時にはすべて抜かれてしまってお客様の目には触れません。
使い捨てになる糸ですので悲哀を誘います。


343着目襟の印象

上着の胸のネクタイが見える部分をVゾーンといいます。
第1釦の位置を上げるとVゾーンは狭くなり
下げると深く、大きくなります。
最近は第1釦位置を下げてVゾーンを深くする傾向にあります。
数年前まで流行っていた三つ釦ではVゾーンが狭かったので
これに対する反動だと思えます。

一方で襟の刻み目(ノッチ)は高くするのが近年の流行です。
釦位置を下げてノッチを高くすれば必然的に
下襟(ノッチより下の部分)が長くなり
上襟(ノッチより上の部分)は短くなります。

同じように見える二つ釦の上着でも
新しいものは新しく、古い服は古く思えるのは
襟の印象の違いによる部分が大きいようです。


342着目冬アルパカ

現在は全国どこのテーラーでも裏地はほとんどサべりを使っていることと思います。
サベリにも種類はいろいろありますが
裏地にするためにわざわざ開発された布ですので、
当然ながら裏地にするに適した性質を持っています。
最大の特徴はすべりが良いということです。

サベリが開発される以前にはアルパカを使うことが一般的でした。
元々はアルパカという動物の毛で織られていた生地らしいのですが
私が生まれるころにはすでに羊毛で作られるようになっていました。
独特の風合いを持った良い素材ですが、摩擦に強いとはいえず
昭和50年代にはサベリにとって代わられました。

ところが現在でも一部マニアの方から裏地はアルパカにして欲しいという
お申し出が年に数回程度あります。
そのたびにあちこちの裏地屋さんを探すということになるのですが、
その捜索過程で古くから経営している裏地屋さんに
冬アルパカというものを見せて頂きました。
綾織になった結構ぶ厚い生地で、昭和30年ころにはよく使われていたそうです。
たいへん保存が良く、今でも美しい光沢を保持しています。
誰にでもお勧めはできませんが、冬になればお好きな方に使ってみたいと思います。



341着目目付け

最近よくお客様がよく「目付け」を話題にされます。
目付けとは生地1メートル当たりの重さのことです。
夏物で200グラム台、合物で300グラム台が多く
400グラムを超えるものは冬物のかなり厚手の生地です。

しかし私ども仕立屋が商社から生地を仕入れるときに
目付けが話題になることはこれまでほとんど皆無でした。
目付けという言葉自体使った覚えがありません。
生地を見て、触って「良し」と思えば仕入れる、ただそれだけです。
最近はお客様のお尋ねに答える必要があるので一応
生地サンプル裏にある重さ表示を確認はするのですが…。

目付けという言葉は一部のファッション誌が数年前に
作りだした流行語だと思っています。
これまでアナログ感覚で表現していた生地の評価に
数字で表すデジタル的要素を取り入れたということでしょう。


340着目エア取りの生地

近年はファッション誌やネットの記事が発達しているので
お客様の方が当方より詳しいということがよくあります。
先日はハリソンズ・オブ・エジンバラのGRAND CRUで
仕立てて欲しいと指名するお客様がいらっしゃいました。
英国製スーパー150~180の素晴らしく良い素材ですが
エア取り(サンプルから注文した1着分だけ空輸)する生地ですので
現物はほとんど日本国内にはなく、私も見たことがありませんでした。

よくそんなブランドをご存じですね、と伺うと
「有名ですから」とのことで、ファッション誌ではお馴染みらしいです。

エア取りの生地は店にサンプルだけ置いておけばいいので
仕立屋としては在庫負担がない分資金的に楽です。
しかし応々にしてサンプルと実際の生地は印象が違います。
お客様にはよく説明してから注文するようにしています。

339着目ズボンのダブルとシングル

ズボン裾にはダブルとシングルがありますが
シングルの方が正式です。
礼装であるモーニングやタキシードは全てシングルにします。
かつて洋服は全て顧客の注文に応じて1着ずつ作るオーダー品でしたので
股下もちょうど良い長さのシングルにしていました。
しかし雨の日には裾が濡れてしまうので折り返すことがありました。
それがなかなか格好が良いと思ったしゃれ者が
最初からデザインとして裾を折り返したズボンを仕立てたことが
ダブルの始まりです。

ダブルのご注文は10着に1着くらいでしょうか。
ダブルにすると裾に重みができるので
ズボンのラインが収まりやすいというメリットもあります。
折り返し幅は4センチが標準で
3,5センチなら軽快な感覚、4,5センチなら重厚な感じになります。


338着目モヘア生地

商社の方がモヘア生地サンプルを持って
営業に見えるシーズンになりました。
冬物生地の多くはウール(羊の毛)で織られていますが
モヘアはアンゴラ山羊の毛が原料です。
ウールよりも手触りが冷たいので春夏の服地に使います。
反発力に欠けるためウールと半分ずつ混ぜた位の生地が使い易く
モヘア60%(ウール40%)ならツヤを重視した高級品になります。

しかし最近モヘア100%の生地も出回るようになりました。
サンプルを触ったかぎりではよくできていますが
実際の着心地や耐久性は仕立てて3年くらいしないと分かりません。
まだしばらく様子を見たいと思います。

337着目色鉛筆

当社のお客様の3、4割くらいは県外の方です。
作りたい服のイメージがはっきりしている場合は
お見えになる前にメールなどでできるだけ細かくお好みを確認し
ご来店の日にはお気に召して頂けそうな生地を揃えておきます。

グり―ン系など比較的珍しい色の洋服をご希望の場合は
イメージされている服の色合いを色鉛筆の色で指定頂くこともあります。
大きな文房具屋さんに行くと何百種類もの色鉛筆がずらりと並んでいて
それぞれに色番号がついています。
125番くらいのグリーン、などとおっしゃって下さるとそのような生地を
何種類か用意してお待ち申し上げます。

当方でデザイン画を描いてメール添付でお送りすることもあります。


336着目糸のいろいろ

一着の洋服を縫い上げるにはたくさんの種類の糸を使います。
・釦付け糸(釦付け専用の糸で、昔は麻糸を使いました)
・ハブ糸(細いミシン糸のことです)
・まつり糸(ズボン裾などをまつるための糸)

・穴かがり糸(釦穴の周囲をかがっている太目の絹糸)
・カタン糸(ズボンの腰裏やポケット縁を縫う蝋引きの綿糸です)
その他装飾的にステッチ色を使うこともあります。
近年はどの糸もポリエステル製が主流になっていますが、
ハンドメイドの洋服は今でも表から見える部分のほとんどに絹糸を使っています。

実際には糸が目にふれることは少ないのですが、
やはり絹独特のツヤがいいのです。

335着目割増料金

イージーオーダーのお店の多くでは上着を総裏にしたり
袖口を本開きにするなどの注文を付けると割増料金が必要だと言われます。
お店には縫製工場からはひとつひとつの加工について
細かな料金を定めた表が来ています。
注文を付け加えるとその分だけ工賃が上がるので
お客様に負担頂いているわけです。

当社では特別なお仕立てでない限り割増料金は頂いていません。
お体がけた外れに大きな方でも料金は同じです。
オーダーの洋服はお一人お一人デザインやサイズが異なっていて当然で、
どれが普通ということはないと考えているからです。

334着目本切羽

上着の袖口が実際に開くように作るお仕立て方を
「本切羽(ほんせっぱ)」と呼ぶことは、以前はなかったように思います。
10年ほど前からファッション雑誌などが普及させた言葉ではないでしょうか。
切羽は土木用語や刀の部品名であっても袖口の名称としては使われず
仕立屋では「本開き」の名称が一般的だったように思います。

本格的な縫い方ではあるのですが袖口に釦ホールをあけてしまうので、
袖丈直しが難しくなるという短所があります。
後で袖丈を短くしようとした時、袖口はもはや動かせないので
袖山(袖の付け根の部分)を詰めることになるのですが
これは簡単な作業ではありません。
当方からお勧めすることはないのですが
もちろんお客様のご希望とあれば
慎重に袖丈を決定してから本開きにいたします。


333着目3種類の生地

生地には3種類あります。
織物編み物
フェルトです。
ちょっと見たところはどれも同じような1枚の布ですが、実は全く構成が違います。

洋服生地として最も多く使われている
織物
何千本もの縦糸と何万本もの横糸を組み合わせて布にしています。
「鶴の恩返し」の鶴が機織り機で織っている生地が織物です。

ジャージの体操服やセーターになる 編み物
長い1本の糸を絡み合わせて布状にしたものです。
セーターをほどくと1本の糸に戻り、毛糸玉を作ることができます。
糸が絡み合った状態ですので伸縮性があります。

下写真の帽子は
フェルトで作られています。
織物や編み物は糸からできていますが
フェルトは羊やラクダの獣毛の固まりを板状に伸ばし
これに熱と圧力を加えて押し固めた不織布です。
この帽子はどこも縫っているところはなく
円筒形の型にフェルトを押しつけるプレス製法で作られています。
お茶席に敷く緋毛氈もフェルトです。

(332着目)ボーラーハット

ボーラーハットは19世紀ロンドンの帽子製造業者
ウイリアム・ボーラーが作った帽子です。
丸い頭部と反り返ったツバが特徴で
野駆け(乗馬でのピクニック)の際に頭を小枝から守るために考案されたものですが
上流階級のかぶるシルクハットと庶民のソフトハット(中折れ帽)の
中間的存在として世界中に普及しました。

アメリカではダービーハットと呼ばれていて
チャップリン演ずる放浪者がかぶっています。
日本では山高帽といわれ、明治大正時代には着物姿で
これを頭に乗せた写真もよく見られます。

帽子はどれもリボンの結び目が見える方が左側です。


(331着目)天然素材
 
既成服の多くはポリエステル製の糸や裏地を使っています。
合成樹脂は人為的にさまざまな機能を持たせることができ
発色が良くて値段が安いなどのメリットがあるからです。

当社でハンドメイドする洋服は絹糸で縫い
裏地には綿(キュプラ)を使います。
なるべく天然素材を使いたいのは、その方が安心できるからです。
天然素材は人間との付き合いが長く
性質の良い点も悪い点もよく分かっています。
仕立屋にとってはミシン調子やアイロン温度もお馴染みなので
縫い上がりに自信が持てます。

出来上がり具合にも風格があって
着用する人を落ち着かせるように思えるのです。



仕立屋だけが使う言葉があるようです。
「馬乗り」センターベントのことです。昔(モーツアルトが生きていたころ)の上着は丈が長く
背中の中央が割れていないと馬に乗ることができませんでした。
「カブラ」折り返し(ダブル)のあるズボン裾のこと。英語で「ターン・アップ」といいます。
これを「ターナップ(蕪)」と聞き間違えたためといわれています。